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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)112号 判決

東京都小平市美園町三一二番地

原告

金沢茂

右訴訟代理人弁護士

川口巌

嶋田喜久雄

渋田幹雄

斉藤展夫

鈴木亜英

二上護

右川口訴訟復代理人弁護士

盛岡暉道

東京都東村山市本町一丁目二〇番地

被告

立川税務署長事務承継者

東村山税務署長

須貝秀敏

右訴訟代理人弁護士

島村芳見

右指定代理人

高梨鉄男

石塚四郎

藤井正信

渡部康

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

訴外立川税務署長が原告の昭和四三年分所得税につき昭和四五年七月一七日付でした更正処分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二原告の請求原因

一  原告は、食肉小売業を営んでいる者であるが、その昭和四三年分所得税について次表確定申告欄記載のとおり申告をしたところ、立川税務署長から同表更正欄記載のとおり更正処分及び過少申告加算税賦課決定(以下一括して「本件課税処分」という。)を受けたので、これに対して異議手続を経て審査請求をしたが棄却された。

〈省略〉

なお、原告を所轄する税務署は、昭和四八年七月九日に大蔵省組織規定の改正(昭和四八年六月三〇日大蔵省令第三五号)により東村山税務署に変更された。

二  しかしながら、本件課税処分には次のとおりの違法がある。

1  本件課税処分は、原告が小平東村山民主商工会に加入していたことから原告を脱会させることを意図して行われたものであって、憲法一九条、二一条、一四条に違反する。

2  立川税務署長は、本件課税処分に先立って、その必要性もないのに専ら原告を右民主商工会から脱会させることを目的として税務調査を行い、また、その調査たるや極めて不十分なものであった。それ故、右調査は違法というほかはなく、この調査に基づいて行われた本件課税処分も、また、違法である。

3  本件課税処分は原告の総所得金額を推計によって認定しているが、推計をしうる要件を欠くのみならず、その推計方法にも合理性がなく、また、総所得金額の認定が過大である。

三  よって、本件課税処分の取消しを求める。

第三請求原因に対する認否

請求原因一は認めるが、同二は本件課税処分が推計によるものであるとの点を除き争う。

第四被告の主張

一  税務調査の必要性

立川税務署長は、原告の所得税について昭和四一年から調査を行っていなかったことと原告の申告にかかる本件係争年分の事業所得金額が事業規模に比し過少であると認められたことから、右年分の所得について調査の必要性があると判断して調査を行ったものであり、原告を民主商工会から脱会させることを意図したものではない。

二  推計の必要性

立川税務署の係官は、昭和四四年一一月五日以降六回にわたり、原告の本件係争年分の所得税調査のため原告方に臨店し、原告やその家族に対して原告の確定申告にかかる総所得金額の計算内容の説明を求めると同時に、その内容を明らかにする帳簿書類の呈示を求めたが、原告は、数件の仕入先の氏名を明らかにするとともに収支明細書及び昭和四三年五月から同年一二月までの不正確な売上帳を提出したにとどまり、右収支明細書を作成する基礎となった原始記録については保存していないと主張して一切呈示しなかった。このため、立川税務署長は、原告の総所得金額を実額によって算出することが不可能であったので、推計によりこれを算出したものである。なお、原告は異議手続において納品書、領収書等仕入及び経費に関する原始記録を提出したので、売上原価と必要経費とについてはおおむね実額によって算定することができたが、売上金額についてはなおその実額を把握することができなかった。

三  総所得金額

原告の昭和四三年分の正当な総所得金額は、事業所得金額二一二万七八二〇円から譲渡損失金額七万五七五〇円を控除した二〇五万二〇七〇円であるから、その範囲内で行われた本件課税処分に違法はない。

右のうち原告が争う事業所得金額の算出根拠について説明すれば、以下のとおりである。

1  売上金額 一五六一万五一四一円

別表の同業者の平均差益率〇・二六三九を一から控除した平均原価率〇・七三六一で2の売上原価一一四九万四三〇六円を除して、売上金額一五六一万五一四一円を算定した。

別表の平均差益率は、昭和四三年当時、原告の食肉小売店の所在地を管轄していた立川税務署管内において、事業内容等が原告と類似すると認められる食肉小売業を営む者のうち青色申告による者五名について、昭和四三年分の売上金額、売上原価、差益金額、差益率を算定し、右差益率の平均値を求めたものである。

2  売上原価 一一四九万四三〇六円

その内訳は次のとおりである。

〈省略〉

なお、〈14〉野村商店からの仕入金額一四万九三六五円は、原告が提出した領収書等により確認した一三万七四六〇円に、右領収書等によっては確認することができなかった二月分について三月分一万一九〇五円と同額であるとみてこれを加算した金額である。

3  必要経費 一九九万三〇一五円

その内訳は次のとおりである。

〈省略〉

なお、〈10〉諸会費二万九七〇〇円は、原告が提出した領収書等により確認した同業者組合費及び商栄会費二万〇一〇〇円と被告が推計した民主商工会費九六〇〇円(月額八〇〇円)との合計額である。

4  事業所得金額 二一二万七八二〇円

1の売上金額一五六一万五一四一円から2の売上原価一一四九万四三〇六円と3の必要経費一九九万三〇一五円とを控除して、事業所得金額二一二万七八二〇円を算定した。

第五被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  税務調査の必要性について

税務調査の必要性についての被告の主張は争う。

二  推計課税の必要性について

立川税務署の係官が昭和四四年一一月五日に税務調査のため原告方に臨店したこと及び原告が電話で数件の仕入先の氏名を明らかにしたことは認めるが、その余は否認する。

原告は、昭和四四年一一月五日に事前の連絡もなく臨店を受けたため準備が整っておらず、また、当日は多忙でもあったので調査に応じることはできなかったことから、立川税務署の係官は後日再び臨店することを約しその日はなんら調査を行わず立ち立った。そして、原告は約束の日に資料を用意して待っていたが右係官は訪れず、その後も臨店を受けることなく、また、総所得金額の計算内容の説明や帳簿書類の呈示を求められたこともなかった。右のとおり原告が総所得金額を実額によって把握するに足る資料を準備していたにもかかわらず、これを調査することなく総所得金額を推計によって求めた本件課税処分は違法というほかはない。また、原告は、異議手続において納品書、領収書等仕入及び経費に関する原始記録並びに本件係争年全年にわたる売上高を記載した売上帳を提出したのであって、この売上帳の売上高は、原告又はその母金沢みきが毎日その日の領収書や納品書の裏面を用いて当日の売上高を計算しその結果を正確に転記したものである。それ故、被告は原告が提出した右資料によって総所得金額を実額で把握することが可能であったのであるから、この点からも本件課税処分は違法である。

三  総所得金額について

1  事業所得金額から控除されるべき譲渡損失金額が七万五七五〇円であったことは認めるが、事業所得金額は否認する。

2  売上金額は否認する。被告が選択した同業者の売上高及び仕入高は、おおむね原告の申告売上高及び仕入高の五〇ないし六〇パーセント程度であるが、一般に差益率は売上高に逆比例する傾向があるので、かかる小規模業者の平均差益率を適用すると、原告の売上金額を実際よりも過大に評価することになる。また、右同業者は、売上高のうちに占める店頭売りと大口の掛売りとの割合や従業員数についての原告との類似性に関する検討を経て選択されたものでもない。それ故、原告の売上原価から売上金額を推計するについて右同業者の平均差益率を適用することは合理性がない。

売上金額は、原告が提出した前記売上帳の記帳合計額一三八六万一三〇〇円(その内訳は次表のとおり)に、自家消費分一八万円(月額一万五〇〇〇円)を加算した一四〇四万一三〇〇円である。

〈省略〉

3  売上原価のうち、〈7〉高崎ハム、〈20〉ミスズ食品及び〈21〉サンエム食品からの仕入金額は認めるが、その余は否認する。

右否認部分についての原告主張額は、次のとおりである。

〈省略〉

右のとおりであり、以上のほかに原告には更に次の〈25〉ないし〈30〉の仕入れがあった。

〈省略〉

以上のとおりであるから、売上原価はこれらを合計した一一三五万九一六三円(原告の昭和四八年一二月七日付準備書面に一一三六万〇〇六三円とあるのは誤記と認める。)である。

4  必要経費のうち、〈5〉接待交際費、〈7〉修繕費、〈8〉消耗品費、〈10〉諸会費及び〈11〉雑費を除くその余は認める。

右〈5〉、〈7〉、〈8〉、〈10〉、〈11〉については、被告主張額の支出があったほかに更に〈5〉接待交際費一万二〇六〇円、〈7〉修繕費八四四五円、〈8〉消耗品費一九万二六七〇円、〈10〉諸会費一万四二〇〇円及び〈11〉雑費五一四三円の支出があり、これらを被告主張額に加算すべきである。また、以上のほかに必要経費として計上すべきものとして福利厚生費一万七七二〇円及び備品費八万〇五二〇円があった。したがって、必要経費はこれらを合計した二二二万四二九二円である。

第六証拠

一  原告

1  甲第一号証の一ないし八、第二号証の一ないし一一、第三ないし第七号証、第八号証の一の一ないし二二の各a、b、第八号証の二の一ないし一四の各a、b、第八号証の三の一ないし二三の各a、b、第八号証の四の一ないし二〇の各a、b、第八号証の五の一ないし二三の各a、b、第八号証の六の一ないし一六の各a、b、第八号証の七の一ないし二一の各a、b、第八号証の八の一ないし一二の各a、b、第八号証の九の一ないし一四の各a、b、第八号証の一〇の一ないし一六の各a、b、第八号証の一一の一ないし一六の各a、b、第八号証の一二の一ないし八の各a、b(以下甲第八号証関係の書証を一括して「甲第八号証の一ないし一二の各a、b」という。)、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし七、第一一ないし第一五号証

2  証人藤原新達、同田川末吉、同金沢みきの各証言、原告本人尋問(第一、二回)の結果

3  乙第九号証、第一三号証の一ないし八四の成立は不知。乙第一六号証のうち、佐野政雄作成部分の成立は不知、その余の部分の成立は認める。その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七号証、第八号証の一、二、第九ないし第一二号証、第一三号証の一ないし八五、第一四ないし第一六号証

2  証人八巻則行、同山田節、同松浦利雄、同椙崎彦太郎の各証言

3  甲第三ないし第七号証、第九号証の二、第一二ないし第一四号証の成立は認めるが、その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  原告がその昭和四三年分所得税につき推計による本件課税処分を受けたことについては、当事者間に争いがない。

二  原告は、本件の税務調査及び課税処分が原告を民主商工会から脱会させることを意図して行われたものであると主張し、証人藤原新達、同田川末吉、同金沢みきの各証言及び原告本人尋問(第一回)の結果中には、立川税務署の係官が本件の異議手続における調査に際して原告の母みきに対し民主商工会をやめて国税局に泣きつけば更正処分はなんとかなると言ったとの供述部分があるが、これは証人山田節の証言に照らして措信することができず、他に右原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、証人八巻則行の証言によれば、立川税務署長は、小川屋精肉店の屋号で食肉及び惣菜用揚物小売業を営んでいた原告の所得税につき昭和四一年以降調査を行っていなかったこと及び原告の申告にかかる本件係争年分の事業所得金額が事業規模に比較し過少であると認められたことから、右所得について調査の必要性があると判断して本件の調査を実施し、その結果に基づいて本件課税処分を行ったものであることが認められる。

二  推計課税の必要性について

1  成立に争いのない乙第一〇号証、原告本人尋問(第一回)の結果により成立を認める甲第二号証の一ないし一一、証人八巻則行の証言及び原告本人尋問(第一回)の結果(一部)を総合すると、立川税務署の係官が昭和四四年一一月上旬から原告の調査に着手し、同月五日から昭和四五年一月一九日までの間に六回にわたり原告方に臨店し、原告やその家族に対し、再三、原告の提出した係争年分の確定申告書記載の総所得金額の計算内容を明らかにする帳簿書類の呈示を求めたが、原告は、若干の仕入先を明らかにするとともに、昭和四三年五月一日から同年一二月三一日までの日々の売上額を月ごとに記載した売上帳(甲第二号証の一ないし一〇)と同年分営業収支明細書(乙第一〇号証)を提出したにとどまり、右売上帳や営業収支明細書に記載された金額を裏付ける原始記録その他の帳簿書類は一切呈示せず、取引先等の反面調査によっても正確な収支の実額を把握することができなかったので、立川税務署長は推計によって本件課税処分をしたことが認められる(立川税務署の係官が昭和四四年一一月五日に原告方に臨店したこと、原告が調査に対して若干の仕入先を明らかにしたことは、当事者間に争いがない。)右認定に反する証人田川末吉の証言及び原告本人尋問(第一回)の結果は措信することができず、また、右課税処分に至るまでの調査をもって不十分なものであったとすることもできない。

してみると、本件課税処分当時において原告の所得金額を認定するためには推計によるほかなかったものというべきである。

2  ところで、原告は、前記五月分ないし一二月分の売上帳(甲第二号証の一ないし一〇)のほか、不服審査の段階で提出した一月分ないし四月分の売上帳(甲第一号証の一ないし八)、納品書、領収書等(甲第八号証の一ないし一二の各a、b)によれば、原告の係争年の売上金額を実額で認定することができると主張するので、この点について判断する。

(一)  証人金沢みき及び原告本人(第一回)の供述するところによれば、原告店舗では、毎日の営業終了後に当日の売上現金残高を確認し、これに当日売上金の中から現金で支出した仕入代その他の諸出費の額を加算して、その合計額から毎朝釣銭用として元入れした一万円を差し引いたものを当日の売上高とするという方法をとっていたが、この方法による売上高の計算をするについては、仕入先から受け取った領収書、納品書、請求書等の一部(甲第八号証の一ないし一二の各b)の裏面にその日の売上現金残高と売上金からの現金支出分とを原告又は母親みきがメモしておき(このメモが甲第八号証の一ないし一二の各aである。以下「裏メモ」という。)、そのメモに基づく計算結果を当日の売上金額として売上帳(甲第一号証の一ないし八、同第二号証の一ないし一一)に転記していた、というのである。

(二)  そこで、右裏メモと売上帳とを対照してみると、両者はおおむね一致しているといえる。しかし、一部の裏メモには売上帳と金額が突合しないものや、売上帳の何日分に対応するものかが不明のものもあり、また、同じ裏メモに他の数字や計算が雑然と併記されていて、これがなにを意味するのか不明のものも少なくない。

(三)  前記のとおり、裏メモには当日の仕入代その他の現金支出が記載されているはずのものであるが、二月中の裏メモとして提出されている甲第八号証の二の一ないし一四の各aと証人椙崎彦太郎の証言により成立を認める乙第一三号証の二、八、一〇、一二、一九、二一ないし二四、二六、三〇、三三、三六、五〇ないし五二、五五、五七、五九、六二、六六、六七、七〇、七二、七九、八〇、八四とを対照し、かつ、右証人椙崎の証言を合わせると、二月分として裏メモのある日数一四日のうち一日ないし三日、五日、六日、一〇日、一二日、一七日、一九、二四日、二九日の一一日分については、当日の仕入代等の一部(右引用の乙号証記載のもの)が裏メモに記載されておらず、その件数は少なくとも二七件、金額は七万七三七一円であることが認められる。

この点に関し、原告は、仕入等の日に必ず現金が支払われていたとは限らないとか、あるいは、現金支出のうちには店内にあった前日分の売上金の中から支払われたものもあるなどと主張、供述するが、成立に争いのない乙第一四号証、証人椙崎彦太郎、同金沢みきの各証言及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告方では、仕入代等はその都度現金で決済するのが普通であり、また、日々の売上金は毎日か一日おきに信用金庫に預け入れていたこと、原告は本件の審査請求の審理を担当した係官に対し現金支出の一部につき計上洩れを自認していたことが認められることなどに徴すると、裏メモに記載のない前記支出分が当日の売上金中からの支払でなかったとみることは極めて困難であり、売上に加算すべきものを脱漏したものと推認するのが相当である。これに反する原告本人尋問(第一回)の結果はたやすく採用しがたく、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

そこで、二月分として裏メモのある一四日間について、右裏メモ(甲第八号証の二の一ないし一四の各a)に記載された売上金額と認められる額五八万〇四九五円に、その脱漏分と認められる前記七万七三七一円を加えて、脱漏割合を計算すると、一二パーセント弱となり、右裏メモの不正確性は無視しがたいものというべきである。

(四)  二月分の裏メモについてみた結果が右のとおりであるとすれば、反対の立証のない限り、他の月分の裏メモについてもまた相当程度の脱漏があるものとの推定は免れないところであり、結局、右裏メモ及びこれから転記したとされる売上帳は全体として正確性に乏しく、売上の実額を認定する資料としてはたやすく措信することができないものといわざるをえない。したがって、他に原告主張の売上実額が正当であることを認めうる的確な証拠はない以上、売上金額については推計によってこれを算定するほかないものというべきである。

三  推計の合理性について

推計課税が適法であるためには、採用した推計方法自体が合理的であること及び推計の基礎とした資料の選択が合理的であることが必要であるが、被告が本訴において主張する推計方法は、売上原価を同業者の平均原価率(一から平均差益率を差し引いたもの)で除して売上金額を推計し、右売上金額から売上原価と必要経費の合計額を控除することによって事業所得金額を求めたものであるから、基礎たる数値に誤りがない限りは、一般的には右推計は一応合理的なものであるというべきである。

そして、被告は、右推計をするにあたり、別表の同業者五名の平均差益率を用いているが、証人椙崎彦太郎の証言により成立を認める乙第九号証、同証言、証人八巻則行の証言によれば、右別表の平均差益率を得るについては、原告店舗所在地を管轄していた立川税務署管内において、昭和四三年に食肉及び惣菜用揚物小売業を営んでいた青色申告者のうち原告店舗が都市部からはずれたところにあることを考慮して中央線沿線の都市部において営業している者を除外し、店舗面積が原告店舗と大差のない四坪以上一〇坪未満の者を立川税務署長が調査し、更に、右調査の結果抽出された同業者から惣菜類の占める割合が原告店舗のそれと著しく異なる者及び付近に競争同業者がなく差益率が極めて高いと認められた者を除外したところ、以上の抽出基準に該当した同業者は、結局、別表の五名であり、それぞれの売上金額、売上原価、差益金額及び差益率は右別表のとおりであったので、これを基礎に平均差益率を算定したことが認められる。

右認定の事実によると、同業者の抽出基準に合理性があり、その抽出には税務当局の恣意の介入する余地がなく、その抽出数は同業者各人の個別性を平均化するに足るものといえるので、売上金額を推計するにあたり、右調査結果によって得た平均差益率を基礎にすることも、また、合理的なものというべきである。

原告は、抽出同業者はいずれも売上高及び仕入高が原告より小規模であるため一般的に差益率が高い業者であること及び売上高のうちに占める店頭売りと大口の掛売りとの割合や従業員数についての原告との類似性に関する検討を経て選択されたものではないことをあげて、右同業者の平均値によることが不当である旨主張するけれども、営業規模が半分程度の業者と比較した場合に一般的に差益率が営業規模に逆比例して必ず低下するとは一概にはいえず、また、証人椙崎彦太郎の証言によれば、店頭売りと大口の掛売りとでは後者のほうが差益率が低いのが通常であると認められるところ、原告方において当時大口の掛売りをしていなかったことは原告本人尋問(第一回)の結果により明らかであるから、右同業者における大口掛売りの有無又はその程度を考慮しなかったとしても、差益率においてはなんら原告に不利益をもたらすものではない。更に、既に認定した同業者の営業規模及び店舗面積からすれば、その従業員数においても差益率に顕著な差をもたらすほどの相違があったとは認めがたく、結局、原告の右主張は採用しがたい。なお、証人田川末吉の証言及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、昭和四三年一二月ころ原告店舗から数百メートルの場所に西友ストアという同業店舗が新規開店し原告方より安く売った事実が認められるが、右証拠によれば西友ストアは原告店舗とは西武新宿線の線路を距てているというのであり、しかも、開店が本件係争年末であることからすると、右開店が前記同業者の平均値を原告に適用するのを不合理ならしめるような特殊事情であったとすることはできない。

四  事業所得金額について

そこで、別表の同業者の平均差益率〇・二六三九を用いて事業所得金額を算定すると、次のとおりとなる。

1  売上金額 一五六二万二九六〇円

別表の同業者の平均差益率〇・二六三九を一から差し引いて平均原価率〇・七三六一を求め、これで2の売上原価一一五〇万〇〇六一円を除すると、売上金額は一五六二万二九六〇円となる。

2  売上原価 一一五〇万〇〇六一円

(一)  〈7〉高崎ハムからの仕入金額が八万六一七五円、〈20〉ミスズ食品が五五〇円、〈21〉サンエム食品が四五〇〇円であったことについては、当事者間に争いがない。

(二)  次表認定に供した証拠欄記載の各証拠(乙第一ないし第三号証、第四号証の一、第六、第八号証の各二は成立に争いがなく、乙第九号証は証人椙崎彦太郎の証言により成立を認めることができる。)によれば、同表記載の各仕入先からの仕入金額が同表記載のとおりであったことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない(〈27〉は原告の主張する仕入の一部である。)。

〈省略〉

(三)  〈14〉野村商店について

前掲乙第八号証の二、第九号証、証人椙崎彦太郎の証言によれば、原告が提出した納品書と領収書により二月分を除く野村商店からの仕入金額が一三万七四六〇円であったことが判明したが、二月分の仕入金額を確認するに足りる資料はなく、三月分のみの仕入金額は一万一九〇五円であったことが認められる。そして、各月の仕入金額はほぼ同一であったと推定すべきであるから、二月分は三月分と同額の一万一九〇五円とみるのが相当である。そうすると、野村商店からの仕入金額は、右二月分一万一九〇五円と前記一三万七四六〇円を合算して、一四万九三六五円となる。

(四)  原告は、右(一)ないし(三)で認定した仕入先以外の店舗からの仕入もあったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

以上検討の結果によれば、売上原価は、(一)ないし(三)の認定額を集計した一一五〇万〇〇六一円となる。

3  必要経費 一九九万三〇一五円

(一)  必要経費として、〈1〉租税公課三万三三一〇円、〈2〉水道光熱費一六万八五七〇円、〈3〉旅費交通費三万八五九〇円、〈4〉通信費三万〇五五四円、〈6〉損害保険料三万六四七〇円、〈9〉減価償却費二一万八七〇七円、〈12〉人件費六〇万六六〇〇円、〈13〉借入金利子一〇万〇一八七円、〈14〉家賃二〇万四〇〇〇円及び〈15〉専従者控除額一五万円があったことについては、当事者間に争いがない。

(二)  また、〈5〉接待交際費六四五〇円、〈7〉修繕費三万〇五四〇円、〈8〉消耗品費二六万〇〇七〇円、〈10〉諸会費二万九七〇〇円及び〈11〉雑費七万九二六七円の限度でそれぞれ必要経費に計上すべきことについても、当事者間に争いがない。そして、右各項目について争いのない額を超えて更に支出があったことを認めるに足りる証拠はない。

(三)  原告は、右(一)、(二)で認定した必要経費以外の経費もあったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

以上の結果によれば、必要経費は(一)及び(二)の認定額を集計した一九九万三〇一五円となる。

以上の次第で1の売上金額一五六二万二九六〇円から(2)の売上原価一一五〇万〇〇六一円と3の必要経費一九九万三〇一五円とを控除すると、事業所得金額は二一二万九八八四円となる。

五  そうすると、原告の総所得金額は、前項の事業所得金額二一二万九八八四円から当事者間に争いのない譲渡損失金額七万五七五〇円を控除した二〇五万四一三四円であり、本件課税処分が右の範囲内で行われていることは明らかである。

六  右の次第で、本件課税処分に原告主張の違法はないから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 川崎和夫 裁判官 菊池洋一)

別表

〈省略〉

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